相続コラム

<相続の豆知識> Q19:相続放棄ができなくなる5つのケースとは?~知らずにやってしまう危険な行為~

2026.10.15

「亡くなった父に借金があったので、相続放棄をしたい」
「母とは長年疎遠だったので、財産を引き継ぎたくない」

このような場合に利用されるのが「相続放棄」です。
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の預貯金や不動産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めて、相続する権利や義務を引き継がない手続きです。

原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
ただし、3か月の期限内に家庭裁判所に申述しても、一定の行為をすると相続放棄ができなくなることがあります。

■相続放棄ができなくなる5つのケース
今回は、特に注意したい5つのケースをご紹介します。

① 亡くなった方の財産を使った・処分した
相続財産を売却したり、自分のために使ったりすると、相続を承認したものとみなされることがあります。
法律上、これを「単純承認」といいます(民法921条)。

たとえば、次のような行為には注意が必要です。
・亡くなった方の預金を引き出して、自分の生活費に使った
・相続した不動産や自動車を売却した
・価値のある貴金属や骨董品を持ち帰り、売却した

一方、財産の価値を維持するための「保存行為」は、原則として単純承認には当たりません。
たとえば、壊れた建物を必要な範囲で修繕したり、腐敗した食品を処分したりする行為です。

また、相続人が受取人に指定されている死亡保険金は、原則として相続人固有の財産ですので、受け取っても相続放棄は可能です。
遺族年金や未支給年金、死亡退職金なども、法律上の受給要件や支給規程によっては、相続放棄をしても受け取ることができます。

なお、葬儀費用を亡くなった方の預金から支払う場合は、注意が必要です。
社会通念上相当な葬儀費用の支払いについて、単純承認に当たらないとした裁判例(大阪高裁平成14年7月3日決定)もありますが、必ず認められるわけではありません。

② 亡くなった方の借金や未払い金を返済した
亡くなった方の預金から、借金や未払い金を返済すると、相続財産を処分したとして、単純承認に当たる可能性があります。

たとえば、亡くなった父親の預金を引き出して、クレジットカードの未払い金や借金を返済した場合です。たとえ善意で支払ったとしても、注意が必要です。

一方、相続人が自分のお金から借金を返済した場合は、原則として相続財産の処分には当たりません。ただし、後から支払いの原資や経緯について争いにならないよう、慎重に対応することが大切です。

なお、亡くなった方が住んでいた賃貸住宅の解約や、公共料金の解約については、具体的な状況によって判断が異なると考えられます。
相続放棄を検討している場合は、安易に手続きを進めない方が安心です。

③ 相続放棄の期限である「3か月」を過ぎた
相続放棄は、原則として、自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に行う必要があります(民法915条)。

たとえば、先順位の相続人が相続放棄をしたことで、兄弟姉妹や甥・姪が新たに相続人となる場合があります。この場合は、原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月が始まります。

では、3か月を過ぎてしまったら、絶対に相続放棄できないのでしょうか?
実は、例外もあります。たとえば、亡くなった方と長年交流がなく、財産が全くないと信じていたところ、突然、知らない債権者から借金の督促状が届いたような場合です。

ただし、単に「借金を知らなかった」というだけで認められるわけではありません。
最高裁判所は、相続財産が全くないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合など、一定の事情のもとでは、相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識できた時から3か月を起算すると判断しています(最高裁昭和59年4月27日判決)。

なお、3か月以内に財産や負債を調べきれない場合は、期間が経過する前に、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることもできます。

④ 相続財産を隠した・こっそり使った
相続放棄をした後でも、相続財産を隠したり、自分のために消費したりすると、相続を単純承認したとみなされることがあります(民法921条3号)。

たとえば、亡くなった方の預金をこっそり引き出して自分のために使ったり、財産を隠して相続債権者に分からないようにした場合です。

一方、故人の写真や手紙、経済的価値がほとんどない衣類などを形見として受け取ることは、通常は問題になりにくいと考えられます。

また、遺骨や仏壇、お墓などの祭祀に関するものは、一般の相続財産とは異なる扱いを受けるため、通常は引き継いでも相続放棄は可能です。
ただし、貴金属や高級ブランド品、美術品など、財産的価値のあるものを持ち帰る場合は、注意が必要です。

⑤ 遺産分割協議書に署名・押印した
相続人全員で遺産分割協議を成立させた場合、原則として、相続を承認したものと判断されます。

たとえば、遺産分割協議書に「父親の財産はすべて長男が相続する」と記載し、長女が署名押印した場合です。
この場合、長女が財産を一切受け取らなくても、家庭裁判所で相続放棄をしたことにはなりません。そのため、父親に借金があれば、長女も法定相続分に応じた返済義務を負う可能性があります。

ただし、遺産分割協議の有効性やその協議書を作成した経緯などによっては、その後の相続放棄が認められる余地もあります。もっとも、遺産分割協議は成立した後の相続放棄は、慎重な判断が必要です。

■ まとめ:相続放棄をする前に、注意したいこと
相続放棄では、3か月という期限を守っていても、亡くなった方の財産を使ったり、処分したりすると、相続放棄ができなくなることがあります。一度、単純承認が成立してしまうと、原則として相続放棄はできません。

相続放棄で大切なのは、家庭裁判所への手続きだけでなく、その前に何をして良いのか、何を避けるべきなのかを知っておくことです。
また、亡くなった方の財産や借金の状況がわからず、相続放棄をするべきか迷われる方もいらっしゃいます。

当事務所では、お一人おひとりの事情を丁寧に伺い、相続放棄の手続きや注意点についてわかりやすくご説明いたします。
相続放棄をお考えの方は、期限が迫る前に、お早めにご相談ください。

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