相続コラム

<相続の豆知識> Q18:認知症の相続人がいても、法定相続登記はできる?~メリットとデメリット~

2026.09.16

「相続人の中に認知症の人がいるので、遺産分割協議ができない……」

このようなご相談を受けることがあります。
たとえば、父親が亡くなり、相続人が母親と娘2人だったとします。

母親が軽度の認知症であっても、遺産分割の内容を理解して判断できる意思能力があれば、遺産分割協議を行うことは可能です。
詳しくは、相続コラムQ2をご参照ください

しかし、母親の認知症が進み、意思疎通ができないような状態であれば、有効な遺産分割協議をすることはできません

では、このような場合、相続手続きを進めることはできないのでしょうか。

■ 認知症の相続人がいる場合の3つの方法
主に、次のような方法が考えられます。

① 成年後見制度を利用する
② 法定相続分どおりに相続登記をする
③ 相続人申告登記をする
上記方法は、相続コラムQ1にも掲載しています

①の成年後見制度を利用すれば、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人に代わって財産管理などを行うことができます。
ただし、必ずしも親族が成年後見人に選ばれるとは限りません。
司法書士や弁護士などの専門職が成年後見人に選任された場合には、通常は本人の財産から報酬を支払う必要があります。

また、成年後見制度は、本人の財産や権利を守るための制度です
そのため、相続人の希望どおりに自由に遺産分割ができるとは限りません

一方、③の「相続人申告登記」は、相続登記の義務を簡易に履行するために設けられた制度です。
相続人が単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。

ただし、相続人申告登記は、不動産の権利関係そのものを公示する相続登記ではありません。
そのため、将来、不動産を売却したり、担保に入れたりする場合には、改めて相続登記が必要になります。

■ 遺産分割をしなくても「法定相続分」で登記できる
そこで選択肢となるのが、②の「法定相続分どおりに相続登記をする」方法です。

「相続が発生したら、相続人全員で遺産分割協議をしなければならないか・・」
と思われている方も多いのですが、必ずしもそうではありません。

遺産分割をしていない場合、不動産は法律上、各相続人が法定相続分に応じて相続した状態になります。
そして、法定相続分どおりの相続登記であれば、共同相続人のうち1人から、相続人全員分の登記を申請することができます

たとえば、父親が亡くなり、
母親:2分の1
長女:4分の1
次女:4分の1
という法定相続分であれば、長女または次女が申請人となり、3人全員を法定相続分どおりに登記することができます。

つまり、認知症で意思能力のない母親が遺産分割協議に参加できない場合でも、法定相続分による相続登記を進めることができるのです。

■ 法定相続分で登記する場合の5つの注意点
ただし、この方法にも注意すべき点があります。

① 認知症の相続人には「登記識別情報」が交付されない
共同相続人のうち、長女や次女だけが申請人となって相続登記をした場合、申請人とならなかった母親には「登記識別情報」が通知されません。
(登記識別情報とは、昔の「権利証」に代わるものです)

② 預貯金などの相続手続きは別問題
相続登記ができたとしても、預貯金や有価証券などの相続手続きまで自由にできるようになるわけではありません。

意思能力のない相続人がいる場合、金融機関での手続きでは成年後見人の選任などを求められることがあります。
つまり、「不動産の相続登記ができた=すべての相続手続きができる」というわけではありません

③ 不動産を自由に売却できない
法定相続分で登記すると、不動産は相続人全員の共有になります。
先ほどのケースでは、母親も2分の1の持分を持つことになります。

不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の意思が必要です。
そのため、母親に意思能力がなければ、そのままでは不動産全体を売却したり、担保に入れたりすることはできません

近い将来に不動産を売却する予定がある場合は、法定相続分で登記することが本当に適切なのか、慎重に検討する必要があります。

④ 相続した財産を自由に管理・処分できない
子どもであっても、認知症の親の財産を本人の同意なく自由に処分することはできません。
そのため、親名義の預貯金や株式を自由に動かしたり、親の持分がある不動産を売却したりすることはできません。

法定相続分で相続登記をしても、この問題が解決するわけではありません。

⑤ 相続税の特例が使えない場合がある
相続税が発生するご家庭では、税金についても注意が必要です。
遺産分割ができていない財産については、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」など相続税を大きく減らせる制度を、当初の申告では利用できない場合があります

一定の手続きをしたうえで後から遺産分割が成立すれば、特例を受けられる場合もありますが、認知症の相続人がいるケースでは、その後の遺産分割自体が難しいといえます。
相続税が発生する可能性がある場合には、安易に登記をする前に税理士にも確認しておくことが大切です。

■ 登記識別情報がないと、将来困る?
「母親に登記識別情報が発行されないのは大丈夫なの?」
と心配される方もいらっしゃると思います。

たしかに、もし成年後見人がついて、母親の持分を生前に売却する場合などには、登記識別情報がないため、通常より本人確認の手続きが煩雑になります。

一方、母親が亡くなり、その持分について相続登記をする場合には、原則として母親の登記識別情報を法務局へ提出する必要はありません。

そのため、不動産を売却せず、母親の相続によって子どもへ引き継ぐことを想定しているケースでは、登記識別情報が交付されないことは大きな問題にはなりません

■ まとめ
相続人の中に認知症の方がいるからといって、必ず成年後見人を選任しなければ相続登記ができないわけではありません。

不動産については、遺産分割協議をせず、法定相続分どおりに相続登記をする方法が適している場合があります。

ただし、
・不動産を売却する予定があるか
・預貯金などの相続手続きも必要か
・相続税が発生するか
・認知症の親の財産を今後どのように管理するか
などによって、適切な方法は変わります。

「成年後見人をつけないと相続できないのだろうか」
「法定相続分で登記しても問題ないだろうか」
とお悩みの場合は、手続きを始める前に一度ご相談ください。

当事務所では、相続登記だけでなく、成年後見制度や生前の財産管理はもちろん、相続税が発生する場合には税理士との連携も含め、ご家族の状況に応じた最善の方法をご提案しています。

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