相続コラム

<相続の豆知識> Q20:清算型遺贈は、相続人の協力がなくてもできる?~遺言執行者の重要性と注意点~

2026.11.04

「自分が亡くなったら、自宅を売却したお金を、甥や姪に渡したい」

「財産をすべて現金化して、お世話になった人に財産を遺したい」

このような場合に利用されるのが、「清算型遺贈(清算型遺言)」です。

清算型遺贈とは、遺言書に従って、不動産などの相続財産を売却して現金化し、必要な費用を差し引いた残額を、受遺者や相続人に分配する方法です。

すべての財産を現金化するだけでなく、一部の財産を売却したり、分配する割合や金額を指定したりすることもできます。

たとえば、子どものいない方が、甥や姪またはお世話になった人に現金で財産を遺したい場合などに活用できます。

しかし、清算型遺贈では、不動産の売却や登記手続きなどが必要になるため、遺言執行者を指定しておくことが重要です。

■ 遺言執行者がいる場合

遺言執行者とは、相続財産の管理や遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです(民法1012条)。

遺言執行者は就任すると、遺言書の内容を相続人に通知し、相続財産の目録を作成して交付しなければなりません(民法1007条、1011条)。

それでは、清算型遺贈で不動産を売却する場合、どのような登記手続きが必要になるでしょうか?

原則として、次の2段階の登記を行います。

① 亡くなった方から、法定相続人全員の名義に相続登記をする

② 相続人名義から、買主の名義に所有権移転登記をする

形式的にいったん相続人全員の名義にしますが、相続人の協力がなくても、遺言執行者がこれらの登記手続きを進めることができます。

①の相続登記は遺言執行者が単独で申請し、②の売買による所有権移転登記は遺言執行者と買主が共同で申請します。

つまり、相続人が売却に反対していても、遺言書の内容に従って手続きを進められることが、大きなメリットです。

なお、法定相続人がいない場合は、通常、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、財産の管理や清算を進めることになります。

しかし、清算型遺贈の遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、相続財産清算人を選任せずに、不動産を相続財産法人名義に変更し、売却する登記手続きを進められることがあります。

ただし、遺言書の対象外の財産が残っている場合などには、別途、相続財産清算人の選任が必要になることもあります。

■ 遺言執行者がいない場合

この場合、主に次の2つの方法が考えられます。

① 相続人全員が協力して手続きを進める

相続人全員が不動産の売却や登記、売却代金の分配などを行う方法です。

しかし、相続人の中に遺言書の内容に不満を持つ人がいたり、手続きに協力しない人がいたりすると、相続手続きが止まってしまう可能性があります。

② 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる

遺言書に遺言執行者の指定がない場合などには、相続人や受遺者などの利害関係人が、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます(民法1010条)。

ただし、家庭裁判所への申立てが必要になるため、あらかじめ遺言執行者を指定しておく方が、手続きを円滑に進めやすくなります。

■ 清算型遺贈の遺言書の記載例

たとえば、甥と姪に財産を半分ずつ遺す場合です。

遺言書(記載例)

第1条(財産の換価及び分配)

遺言者は、遺言者の有する不動産、預貯金その他の全財産を換価し、その換価金から遺言者の債務、遺言執行費用その他必要な費用を支払い、不動産の売却に伴う譲渡所得税及び住民税等の納税資金を確保したうえで、残額を次の者に次の割合で遺贈する。

(1)甥〇〇に2分の1

(2)姪〇〇に2分の1

第2条(遺言執行者の指定)

遺言者は、本遺言を実現するための遺言執行者として、甥〇〇を指定する。遺言執行者は、不動産の売却、登記申請、預貯金の解約その他本遺言の執行に必要な一切の行為をすることができる。

なお、納税資金の確保や精算方法については、専門家と相談しながら検討しておくと良いでしょう。

■ 不動産を売却するときの税金にも注意

清算型遺贈では、税金についても注意が必要です。

不動産を売却して利益が生じた場合、原則として譲渡所得税や住民税が課税されます。

たとえば、亡くなった方の法定相続人が兄弟2人で、遺言書には「不動産を売却して、その代金をお世話になった知人に遺贈する」と記載されていた場合を考えてみましょう。

この場合、不動産はいったん法定相続人である兄弟2人の名義に登記されますが、売却代金は知人が受け取ることになります。

ここで注意したいのが、譲渡所得税等の問題です。

清算型遺贈では、売却代金を受け取らない法定相続人に譲渡所得税等の納税義務が生じると考えられる場合もあり、誰が税金を負担するのかが問題になることがあります。

そこで、実務上は、遺言執行者が税理士と連携して事前に譲渡所得税等の見込額を計算し、その税額分を売却代金から確保しておく方法があります。

たとえば、税額が200万円と見込まれる場合は、売却代金から200万円を確保し、その他の必要経費を差し引いたうえで、受遺者に一部を先に分配します。そして、翌年の確定申告や納税の際に確保した資金を使えるよう準備し、税額が確定した後に残額を精算するのです。

このような対策を怠ると、後から納税資金が不足したり、相続人と受遺者の間でトラブルになったりする可能性があります。

そのため、清算型遺贈では、不動産の売却だけでなく、税金の支払いまで見据えて準備しておくことが大切です。

■ まとめ

清算型遺贈は、不動産などを現金化して分配できるため、子どものいない方が親族やお世話になった方に遺贈する、または慈善団体に寄付をするといった場合に活用できます。

不動産をそのまま遺すのではなく、現金化して渡すことで、財産を受け取る方の負担を軽減できるメリットもあります。

一方で、不動産の売却や登記、税金の問題など、通常の相続手続きとは異なる注意点があります。

特に重要なのは、遺言書の内容を明確にし、信頼できる遺言執行者を指定しておくことです。

せっかく遺言書を作成しても、内容が不明確だったり、必要な手続きが想定されていなかったりすると、ご自身の想いを十分に実現できない可能性があります。

当事務所では、遺言書の作成から相続登記、不動産の売却に伴う登記手続きまで、必要に応じて他の専門家とも連携しながら、対応しております。

大切な財産を、ご自身が希望する方へ安心して遺すために、まずはお気軽にご相談ください。

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