相続コラム

<相続の豆知識>Q21:負担付遺贈なら、亡き後に妻の面倒を見てもらえる?~7つの注意点~

2026.11.06

「自分が亡くなった後、妻の生活が心配……」
「信頼できる甥や姪に、妻の面倒を見てもらいたい」

このように、残されたご家族の生活を心配される方もいらっしゃると思います。
そのような場合に利用できる方法の一つが、「負担付遺贈」です。

負担付遺贈とは、財産を遺贈する代わりに、受け取る人(受遺者)に一定の義務を負担してもらう遺言のことです。
たとえば、甥に財産を遺す代わりに、妻が亡くなるまで毎月の生活費を支払ってもらうことができます。

ただし、負担付遺贈には、いくつか注意すべき点があります。

■負担付遺贈の具体例
・妻が亡くなるまで、甥に面倒をみてもらいたい
・ペットを友人に託し、生涯大切に飼ってもらいたい
・障害のある長男の生活を、次男に支えてほしい

■負担付遺贈の遺言書の記載例
たとえば、甥に不動産と預貯金を遺贈する代わりに、妻が亡くなるまで生活費を支払ってもらう場合です。

第1条(負担付遺贈)
遺言者は、甥〇〇に対し、下記の不動産及び預貯金を、次条の負担を付して遺贈する。
(不動産及び預貯金の表示は省略)

第2条(負担の内容)
甥〇〇は、前条の遺贈の負担として、遺言者の死亡した日の属する月の翌月から、遺言者の妻〇〇が死亡した日の属する月まで、その生活費として月額〇万円を、毎月末日限り、妻〇〇名義の指定する預金口座に振り込んで支払うものとする。
第3条(遺言執行者)
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇を指定する。

※上記は簡略化した参考例です。実際には、遺贈する財産や負担の内容、受遺者が放棄した場合なども考慮して作成する必要があります。

■負担付遺贈の7つの注意点

①   受遺者に事前に確認しておく
負担付遺贈は、財産を受け取る人が、必ず引き受けてくれるとは限りません。

たとえば、財産に比べて負担が大きい場合や、受遺者が重荷に感じた場合は、遺贈を放棄されてしまう可能性があります。
そのため、あらかじめ受遺者とよく話し合い、負担の内容を理解してもらうことが大切です。

なお、受遺者が放棄した場合、原則として負担の利益を受ける人が、自ら受遺者となることもできます(民法1002条2項)。ただし、遺言者が別段の意思を表示している場合は、その意思に従います。

②   負担に見合う十分な財産を遺す
民法では、負担付遺贈の受遺者は、遺贈された財産の価額を超えない限度で、負担した義務を履行すればよいとされています(民法第1002条1項)。

たとえば、甥に財産を遺贈する代わりに、妻の生活費を毎月支払ってもらう場合です。
妻が長生きして生活費の支払いが長期間続いた場合でも、甥は、遺贈された財産の価額を超えてまで負担する義務はありません。

そのため、遺言者が希望する負担を賄える、十分な財産を遺すことが重要です。

③   負担を履行してくれる人を慎重に選ぶ
受遺者によっては、財産を受け取っても、約束した負担を履行しない可能性があります。ただし、負担が履行されなくても、遺贈が当然に無効になるわけではありません。

この場合、相続人は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行されなければ、家庭裁判所に負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求することができます(民法1027条)。

もっとも、負担が履行されなかったからといって、必ず取消しが認められるわけではありません。
そのため、誰に財産を遺贈するかを慎重に選ぶとともに、負担の内容に齟齬が生じないよう具体的に定めておくことが大切です。

④   有効な遺言書を作成する
遺言書が法律上の要件を満たしていなければ、負担付遺贈も実現できなくなるおそれがあります。

一般的に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。特に自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、形式的な不備により無効となる危険性があります。(詳しくは、相続コラムQ5をご参照ください)

また「妻の面倒を見る」といった曖昧な表現では、具体的に何をすればよいのか、後から争いになる可能性があります。
そのため、遺言書の作成方法だけでなく、負担の内容や履行方法を明確にしておくことが大切です。

⑤   遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです(民法1012条)。
負担付遺贈に必須ではありませんが、遺言執行者を指定しておくことで、財産の引渡しや不動産の遺贈登記などを円滑に進めやすくなります。

ただし、受遺者による負担の履行が必ず保証されるわけではありません。
たとえば、甥が妻への生活費の支払いを途中でやめてしまった場合、妻自身が支払いを求めたり、相続人が家庭裁判所に遺言の取消しを請求したりすることが考えられます。

そのため、長期間にわたる支払いをお願いする場合は、負担が履行されなかったときの対応も、事前に検討しておきましょう。

⑥遺留分に配慮する
「遺留分」とは、配偶者や子どもなど一定の法定相続人に保障された、最低限の遺産取得割合のことです。
遺言書によって財産の配分を決めることはできますが、遺留分を侵害した場合、他の相続人から金銭の支払いを請求される可能性があります(遺留分侵害額請求)。

たとえば、甥が財産を遺贈される代わりに、妻に毎月生活費を支払う場合です。
妻や相続人から遺留分侵害額請求を受けると、甥は生活費とは別に、妻にまとまった金銭を支払うことになり、毎月の生活費の支払いが難しくなるおそれがあります。

そのため、負担付遺贈では、遺留分も考慮して財産の配分を検討することが大切です。

⑥   不動産の遺贈や税金にも注意する
相続人以外の甥や姪、友人などに不動産を遺贈する場合は、登記手続きや税金についても注意が必要です。

たとえば、次のような問題があります。

・不動産の遺贈登記
遺贈によって取得した不動産は、速やかに所有権移転登記を行い、第三者に対抗できるようにしておくことが大切です。
・農地の遺贈
相続人以外の方に農地を遺贈する場合は、農地法3条の許可が必要です。
一方、遺産の全部や割合を指定して遺贈する場合(包括遺贈)は不要です。ただし、農業委員会への届出が必要になります。
・借地権や借家権の遺贈
借地権や借家権を特定遺贈する場合は、原則として地主や大家さんの承諾が必要です。そのため、遺贈を受ける人が承諾を得られるかどうか、事前に確認しておくことが大切です。
・不動産取得税
相続人以外の方に、特定の土地や建物を指定して遺贈する場合(特定遺贈)は、原則として不動産取得税が課されます。
一方、遺産の全部や2分の1など、財産の割合を指定して遺贈する場合(包括遺贈)は、相続人以外の方でも非課税となります。
・登録免許税
不動産の遺贈登記では、相続人が受遺者の場合は原則として固定資産税評価額の0.4%ですが、相続人以外の場合は2%となり、税率が5倍になります。
・相続税
甥や姪などが遺贈を受けた場合、相続税が課されるときは、相続税額の2割加算の対象になります。また、小規模宅地等の特例など、一定の要件を満たさなければ利用できない税務上の特例もあります。

このように、遺贈する財産や受遺者によって、必要な手続きや税金が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。

■まとめ:負担付遺贈で大切なこと
負担付遺贈は、自分が亡くなった後も、大切なご家族の生活を支えてもらうための方法の一つです。
ただし、遺言書を作成するだけで、必ず希望どおりに実現できるとは限りません。

特に、長期間にわたって生活費の支払いなどをお願いする場合は、受遺者が負担を履行できるか、万一履行されなかった場合にどうするかなど、事前に検討しておくことが大切です。
また、ご家族の状況によっては、負担付遺贈だけでなく、家族信託など他の方法が適している場合もあります。

当事務所では、遺言書の作成や生前対策について、お一人おひとりのご希望や状況を丁寧に伺い、必要に応じて税理士などの専門家とも連携しながら、適切な方法をご提案しています。
大切なご家族の将来に備えるためにも、どうぞお気軽にご相談ください。

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